【さぽている育成日記】繋ぎあう手と手の中一つの同じその願い

「え〜とね、父上にとぉ〜っておきの詩を聞かせてあげるね」
にぱりんと音がしそうなほどの笑顔をきめながら、彼女がそう言ったのはついさっきの事。
聡い彼女の事だ。おそらく、最近のオレの悩みを敏感に感じ取ったのだろう。
仕事とはいえ、彼女から心から楽しく謳う事を奪っているのだから……。
その事に、罪悪感を感じていると言う事に……。
陰鬱に沈みかけた心に、彼女の詩声が響く。

それは、世界再生の詩。
空に大地に世界に願いをかけ、生命に希望を与える詩。
この世の全て生きとし生けるもののが助け合い共存しあう。
そこには、人もレーヴァテイルも関係ない。
ただそばにいるだけで、隣にいるだけで幸せになれる。
そういう願いを込めた詩。

どこか懐かしく優しい風がオレの心に吹いた。
さっきまでの陰鬱な思いなど、吹き飛んでしまったようだ。
かわりに、一筋の涙が頬を伝っていた。

気が付くと、オレは彼女の胸の中に頭を抱きしめられていた。
端的に言えば、彼女の胸の上で泣いているかのようだった。
彼女は、まるで幼子をあやすかのようにオレの頭を撫でていた。
一撫で事に、オレの心を溶かしていくかのように感じた。
「うん、靜は、いつまでも、ずっと、父上と共にいるよ」
何か、気恥ずかしい気がしたが、オレはなすがままにオレが泣き止むまで、彼女の気が済むまで
その場にその体勢でいつづけたのであった。